2011.11.15 update


※今回は、私、岡本美鈴からではなく、ELNAの事務局長である田中さんより寄稿いただいたウミガメと放射能調査についての記事。とても興味深い内容ですので、是非お読みくださいね。

今季のウミガメストランディング(死亡漂着)調査もピークを過ぎ、横浜にあるELNAも落ち着きを取り戻しています。データの取りまとめはこれからとなりますが、今季は茨城県からの情報数が極端に少なかったのが大きな特徴です。通常の年であれば、情報数が少なかったことで単純にウミガメの漂着数も少なかったと推測することも可能ですが、今年はやはり福島原発事故の影響を考慮せざるをえません。福島原発事故は、私たちの生活に様々な影響を与えていますが、福島県に近い茨城県でも海のレジャー客の出足を鈍らせたことは容易に想像できます。当然、海に行く人の数が少なければ、海岸に漂着しているウミガメが発見される確率も低くなると推測されますので、茨城県の情報数減少はそういった影響を受けたのではないかと考えています。

 

 

放射性物質がウミガメにどういった影響を与えるのか、ウミガメに放射性物質は蓄積するのかといったことは、ウミガメを調査・研究する団体や個人のみならず、海や野生生物に興味を持つ人なら誰しもが抱く疑問だと思います。IAEA(国際原子力機構)が海洋生態系における放射性核種などの濃縮係数を発表していますが、この中にはウミガメに関する記載は見当たりません。食物連鎖上で比較的ウミガメに近い位相にあると思われる生物では、イルカで300、アザラシやトドなどの海獣類で400といったセシウムの濃縮係数が示されています。濃縮係数とは、海水が汚染された場合、その生物が海水の何倍まで汚染が進むかを示した数値であり、イルカの場合、海水が1ベクレル汚染されると300ベクレルまで汚染が進むということを示唆しています。ウミガメが餌とする生物についてセシウムの濃縮係数を見ると、アオウミガメが主食としている藻類では50、アカウミガメが主食とするエビ・カニや貝類で50~60が示されており、これらの数値を考慮すると、ウミガメの濃縮係数もそう低くはないと想像できるのではないでしょうか。

濃縮係数が高くても、海が汚染されなければ何の問題はないのですが、福島原発事故では人類がこれまで経験したことないようなレベルの短期間高濃度海洋汚染が起きてしまいました。

9月8日に日本原子力研究開発機構が発表したところによると、東京電力福島第1原発事故による海洋への放射能放出総量は1.5京(1京は1兆の1万倍)ベクレルを超えると試算され、東京電力の推定(4~5月に海に流出した汚染水の放射能量は約4720兆ベクレル)よりも3倍以上も多い結果となったそうです。大気中から降下したものも含めて相当量の放射性物質が海洋に流れ込んだことは確実であり、危惧すべき問題であると言えます。

文部科学省のサイトでは、JAMSTEC(海洋研究開発機構)が行った太平洋での放射能分布濃度のシミュレーション結果を公表していますが、それによると、セシウムの汚染域は黒潮や親潮の影響を受けて発電所の沿岸からどんどん沖合(東)に拡がっていき、濃度もどんどん低くなっていくことが見て取れます。こうした拡散と希釈により5月下旬には全海域(37のサンプリングポイント)で検出限界値(セシウム137で約9ベクレル/ℓ)以下になるとの予測を出しており、実測値とも整合性がとれているとのことで、外洋での汚染は広範囲ではあるが、それほど深刻でないということが伺えます。しかし、海水中での放射性物質の移動には、海岸に沿って流れる沿岸流の影響を受ける拡散もあり、この拡散では放射性物質は沿岸域に緩やかに拡がっていきます。放射性物質は海底へと沈降していくため、浅い海域では高濃度で滞留しやすく、汚染は局所的ですが長期的になる危険性があります。

 

ウミガメは海洋を広範囲に回遊しますが、索餌している場所は沿岸部の比較的浅い海域であると、ストランディングしたウミガメの消化管内容物から推測できますので、福島県沿岸部に回遊したウミガメは高い濃度で汚染された餌を食べる可能性が高いと言えます。ウミガメは福島県を始めとする東北沿岸域にも回遊することが確認されており、岩手県大槌沖の定置網で混獲され、標識放流されたウミガメが千葉県でストランディングした例もあります。外洋を回遊するウミガメに対する影響については、JAMSTECのシミュレーション結果を見る限り、放射性物質の拡散と希釈が短期間でかなり進むことが予想されますので、深刻な問題になる可能性は低いように感じています。

 

ウミガメの体内から出てきたゴミや内容物も調査対象になる

原発事故後、ELNAは、かなり早い段階からウミガメに対する放射性物質の影響を調査する意義を感じていました。ELNAは関東沿岸域で年間約100頭のストランディング調査を行っていますので、ウミガメの放射能を測定できる機会はたくさんあります。死亡したウミガメといえども、自然のウミガメに接する機会は、どこの団体よりも、どこの研究者よりも多いのでないでしょうか。

 

放射能測定というとガイガーカウンターをよく耳にしますが、放射性核種の判別を行いながら高い精度で放射能を測定する場合は、1台数千万円もするゲルマニウム検出器という測定機器を利用するのが一般的です。この計測機器は食品などの精密な放射能検査にも使用されています。検査機関に分析を依頼する場合でも1検体1万円以上はかかりますので、放射性物質を測定するという調査は、常に資金難にあえぐNPOにとっては、非常にハードルの高いものとなります。現場で簡単に放射性核種と放射線量を測定できる機器があるといいのですが。しかも格安で!いろいろな業界の人がそう思っていることでしょう。

 

ウミガメの放射能がガイガーカウンターで測定できるのか分かりませんが、とりあえず、ストランディング調査でガイガーカウンターを使用してみようと、栄鉄鋼商事(株)さんとMOTTO(株)さんのご協力のもと動きだしました。何か有意な差が出る調査結果となれば、さらに詳細な調査に移行する計画ですが、どういった結果になるのか、いずれMarineトークショーでもご報告できたらと考えています。

 

ELNA 事務局長 田中真一

 

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